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ABK日本語コースの講師(現・元) によるエッセイです。
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学生の詩 〈おれは風〉 と書家の出逢い = 亀山稔史 
                     〈書 希代侑香さん〉 
(おれは風だぜ  強いほど心配になった 波も大きくなった 木も倒れた おれのせいで ごめんね)

昨日〈2011年2月10日(木)〉、びっくりすること(嬉しいこと)がありました。

午前の授業が終わると、教室の前で水須(ABK職員)さんが待っていました。
「掲示してあった詩を見て」「展覧会で」等々、正直よくわからなかったのですが、とにかくお客様がロビーで待っているというので、そちらに向かいました。

お客様は、駒込在住の希代侑香さんという書家の方で、
「以前、散歩の際に立ち寄ったABKのロビーに掲示したあった学生の詩が気に入り、書の作品とし、展覧会でも好評を得た。この作品を贈りたい。」とのことでした。
幅1メートル以上で、額装も立派な作品です。

調べてみたところ、学生の詩は、学生版「のはらうた」の「おれは風」で、7月期の選択科目「日本語会話(表現)」(土屋先生のクラスです)での香港のマル(陳小婉)さん(当時SB4→現SB1、写真下)の作品とわかりました。

          〈おれは風〉 
          おれは風だぜ
          強いほど心配になった
          波も大きくなった
          木も倒れた
          人も出かけられなくなった
          おれのせいで・・・ごめんね

放課後にマルさんに来てもらって、作品を見せたところ、感激して涙ぐむほどでした。
見ていて、こちらまで嬉しくなる喜びぶりで、その様子を見ていた町田先生(教務主任)も
「幸せのおすそ分けをもらったみたい」と言ってくださいました。

今後、希代さんとも相談し、ABKでしばらく展示をした後、マルさんに直接会って
贈っていただくようなことを考えています。

世の中、いやなニュースも多いですが、こんな嬉しいことに直接出会うことができて、
明るい気分で週末を迎えることができました。  (ABK日本語コース専任講師)
                            陳小婉さん
# by abkd_essay | 2011-02-16 10:20 | 教室で
「食べれますか」    土屋幸子
 巷では「日本人の知らない日本語」という日本教師の抱腹絶倒の日々を描いた本が売れているとか。振り返ってみると私にもいろんなことがありました。
 
 初めての授業での学生からの質問に引きつったこと、印象に残っています。
〈今でも、内心引きつることがありますが、(笑)顔には出しません〉
数年の経験を経てなんとか半人前になったころ…忘れられないことが…。
「今の若者は言葉が乱れている! 特に『ら抜き』言葉は許せない!」と週刊誌に取り上げられた頃の出来事です。

 ここは都内のとある女子大、その日私は、日本語副専攻の大学生の実習を見学させていただきました。学生は○○日本語学校の学生。
では、授業スタート!

   「今日は可能型を勉強しま~す」と明るく女子大生の先生さっそうと登場。
そして、まずチョークを持ち,
    納豆が食べられますか と板書。
次、おもむろに学生を見渡し、片手に納豆を持ち、ニコッとして、
   「みなさ~ん、みなさんは納豆が食べれますか」
「えっ?!」ざわめく教室、学生は「食べれますか」なんて聞いたことない。

   A「先生!黒板の 『食べられますか』 は敬語ですよ」
   B「違いますよ… 先生!「食べられます」は受身です」
   C「え~、違うよ~!」

 学生たちは、若くてかわいい先生の卵を何とか助けたいその一心で、知っている限りのことを叫び続けています。そして…若い女子大生は…もちろん自分が発した言葉、「食べれます」なんて無意識でのこと、何が起こったか分からず、驚きのあまりそのつぶらな瞳をぱちくりとさせ、ただただ、おろおろ。教室の後ろでビデオをストップさせ、頭を抱えていた担当教授の姿も忘れられません。

あれから10数年、あの可憐な女子大生の先生はどうしているでしょう?
今はもうベテランの頼もしい先生になっているのでしょうか?
それともほかの道を歩んでいるのでしょうか?
                                    〔ABK日本語コース日本語講師〕
# by abkd_essay | 2011-01-03 17:01 | 教室で
〈授業で意識していてもらいたいこと〉   國府卓二
 私はいつも新学期の授業の第1日目に、また、1年間を通じて学生に言っていることが
あります。ここでは特に中級レベルの読解の授業について述べたいと思いますが、それは、
授業を受けている時に皆さんに意識していてもらいたいことで、大きく分けて3つありま
す。
 
 1つ目は、自分の意見を持つことです。文章を読んでいる時に、その内容を理解するこ
とはもちろん大切ですが、その次に、書かれている文の内容や筆者の意見に対して賛成か
反対か、また、どの点が同意できて、どこがおかしいと思うのかなど頭の中に思い浮かべ
ながら読んでほしいと思っています。その時に必要なことは、どうして賛成か反対か、な
ぜおかしいと思うかなど理由も考えることです。内容を理解することだけにとどまらず、
同意したり批判したりしながら読んでいけば理解が深まって読むことが楽しくなると思い
ます。
 
2つ目は、他の人の意見もよく聞いて他の可能性も考えることです。自分の意見を持つ
ようになったら、次はそれ以外の考え方を知ることが大切です。自分の意見が間違ってい
る場合もあるし、たとえ自分の意見が正しくても他にも正しい意見があるはずです。答は
1つだけだとは限りませんし、たとえ1つだけだとしてもその答が出るまでのプロセスが
違う場合もあるからです。ですから、練習問題の答が合っていたと満足するだけでなく、
他の考えもあることに気がついて、考え方の幅を広げてほしいと思っています。この習慣
を身につけていけば、1つの考えに縛られずに柔軟に考えられるようになると思います。
 
3つ目は、具体的な内容を考えることです。中級の読解の文章の中には抽象的な内容の
文や語彙がたくさん出てきますが、抽象的な文や語彙はわかったような気になっていて具
体的にどういうことかと尋ねられても答えられない場合がよくあります。とても簡単な例
を挙げると、「生活が便利になった」や「真面目な人」など私達は普通に話したり書いたり
しますが、生活が便利になったというのはどういうことなのか、どんな人が真面目なのか
突然聞かれてすぐに具体的な例が出てこない人が多いと思います。
 
 これらの他にも授業の中で気をつけてもらいたいことがたくさんありますが、まず、上
の3つのことを意識してみて下さい。そうすれば文章を読んでいる時に、今までとは違っ
た新たな発見があるかもしれません。
         写真(左端)筆者  
                                        (ABK日本語コース専任講師)    
# by abkd_essay | 2010-12-14 14:10 | 教室で
〈留学生に教えられたこと〉   星野陽子
出会い、別れ、再会、そして又。小説のようであって小説よりも確かな時の流れがあった。この時の流れの中で様々な留学生との日々の暮らしがあり、ここから実に多くの事を学んだ。アジアの中の日本を知り、世界の中の現実の日本の姿を見、将来の日本の姿に思いを馳せ、日本人を見つめ、自分を見つめることも留学生から教えられたことである。
今日の日本の姿を随分昔に彼らから教えられていたような気がする。そして変わりゆくこれからの世界の姿も彼らは示してくれるだろう。(写真 前列中央 筆者)

世の中は変わっていく。そして人も又変わっていく。ABKの周囲もしかり。銀杏並木の黄金の黄昏も、桜吹雪の三百人劇場の上映予告板も、ABKの建物をすっぽりと覆っていた蔦も、今はその姿をすっかり消してしまった。だが心の扉に耳を当てれば懐かしい光景が蘇ってくる。若さに溢れきびきびと階段を駆け上って行く姿が。笑い転げる明るく跳ねる声が。ふてくされてへの字に曲がった唇が。大粒の涙が。カセットに託した母の心が。不安や苛立ちに押しつぶされそうな思いまでもが鮮明に思い出せるだろう。

長い年月の後に再会したかつての学生が見違えるほど落ち着いてエレガントになっていたり、思慮深く配慮のできる人間になっていたり、大きな開かれた心になっていたりする。彼らも時の流れの中で揉まれ、削られ、苦労を重ねながら己を磨いてきたのだなと感激してしまう。そして時が流れてもABKに集う優しい思いはいつも変わらないのだと感じる。ありがとう優しさをと心から湧き上がる思いが溢れる。

各国事情を知り、各国の文化習慣を知れば相互理解が深まると思っていた。だが習慣の違いを知ることは後から付いてくるものだった。どちらが上か下か、どちらが先に頭を下げるかなどという思いを持っている限り相手との距離は縮まらない。プライドが傷つけられはしないかなどという思い上がりを捨て、新しい風が入って来られるようにほんの少し窓を開くだけでいいのだ、ということも留学生との日々から学んだことである。

留学生は新しい風を運んでくる。新しい風が世の中を少しずつ変えていく。願わくはABKに吹く風が優しい流れになっていつでも誰にでも優しくあり続けて欲しい。この先ABKという外枠が消えてしまったとしてもABKの精神として常に流れ続けて欲しい。
歴史認識の違い、戦後処理の問題、領土問題、経済の行き詰まり、温暖化、様々な問題に囲まれているが、どちらが上か先かではなく、相手の気持ちを少し考えることが問題を解決していくのではないだろうか。ABKに吹く風が様々な問題を解決していく可能性を秘めているように思えてならない。

出会い、別れ、再会、そして又。巡り巡る人の輪が人の心を大きくしていく。
                                        (ABK日本語コース/日本語講師)

 
# by abkd_essay | 2010-10-01 10:42 | 教師のひとりごと
 〈卒業生からのことば〉    亀山稔史
卒業の季節には,学生からいろいろなことばをもらう。
 
直接だったり,カードや寄せ書きの色紙,最近では,メールやCDロムでもらうこともある。 進学や就職をしていくための卒業だし,優しい人たちなので,明るく温かいことばがほとんどである。

 もちろん,教師や学校に満足できなかったこともたくさんある。それはアンケートに書いてくれる。私たちがそれを読んで改善の方法を考える。問題点を書くのは,たぶん面倒だし,遠慮する気持ちだってあるかもしれない。それでも書いてくれるのは,やはり学校への愛情だと思う。そして,後輩のための親切でもある。

 あいさつやカードや寄せ書きで多いのは,
「お世話になりました。ありがとうございました。」
「いろいろなことを勉強しました。」
 そして,
「これからも夢のためにがんばります。」
「日本で学んだことを忘れません。」
 これも嬉しい。
 

 今年の寄せ書きにあったのは,
「いつもよくないことをやって,すみませんでした。」
 遅刻や欠席,宿題の提出遅れが多かった学生のものだ。教員室から,よく電話をかけた。
でも,優しくて正直で,友人に選ぶなら,すごくいい人だった。
 明日から遅刻しません,という約束はせず,遅刻しないようにがんばってみます,と,済まなそうな顔をして言った。うそをつくことになるから,だそうだ。そんなところがよかった。

 卒業後しばらくしてから届くことばもある。
「たくさんの資料を勉強して,資料同士の関連を図にする練習を何回もしたでしょう。ABKで勉強しているときは,嫌だなあ,と思いながらやっていたけど,大学院に入ってから,すごく役に立っています。」
 こんなときは,また嬉しい。

 今年の修了式の日の夕方,帰宅するために三田線に乗った。
同じ車両の隣のドアのところに,その日に卒業した学生が2人乗っていて,会釈をしてくれた。次の駅に着き,2人は降りた。ホームと車内で,お互いに手を振った。
 
でも,1人がそのままホームに立っている。こちらをじっと見ている。
ホームのチャイムが鳴り,ドアが閉まる。まだ手を振ってくれている。
私も手を振りながら,何か言いたいけれどことばが出ない。
地下鉄が動き始め,お互いが見えなくなるまで,そんな時間が続いた。

 温かい「ことば」を胸いっぱいに感じながら,この人たちのためにもっと何ができただろう,新しい学生のためにもっと何ができるだろう,と考えた。
                                       (ABK日本語コース/日本語講師)
# by abkd_essay | 2010-09-22 11:07 | 教師のひとりごと
〈スピーチコンテスト〉   町田恵子
今年も例年通り3月の授業の最終日に、10月生のスピーチコンテストが行われた。
この日のために、1月から少しずつ本番に向けて準備を進める。初めは恥ずかしがったり、嫌がったりしていた学生が、去年のスピーチコンテストのDVDを見て刺激を受けたり、友だちのスピーチに感動したり笑ったりしながら、次第にスピーチが形になっていく。学生たちはスピーチコンテストの数日前に期末テストを終えたばかり、つまり最後の追い込みの時期にいちばん大きな試験とのダブルパンチなのだ。スピーチの準備を着々と進めている学生もいれば、試験勉強に没頭し、最後の追い込みにかける(?)学生も、どちらもやっているのかな~と心配になる学生もいる。

スピーチも個性的だ。ゲーム大好きで友だちに「ゲームボーイ」と呼ばれている学生が、ゲームの楽しさを語った後、「でもゲームをするのは体に良くないから、スポーツをしたほうがいい」としめくくって、笑いを誘った。日頃勉強熱心とは言い難い彼が、全部暗記して堂々と話した。2日前に内容を全部変更して、大丈夫かと心配した学生が、トイレ掃除やいびきに悩まされるアルバイト先の寮での日々の暮らしのエピソードを、何とか無事に話した。自分の主張したいことを得意の漫画で聴衆に示しながら堂々と話す学生もいた。みんなそれぞれその人なりに立派に(?)話し終えて、いい顔をしている。半年前にはほとんど日本語が分からなかったことを思うと、信じられない成長ぶりだ。審査員の先生方から向けられる温かい励ましと称賛の眼差しをちょっと照れながら、受け止めている。
 
このスピーチで10月生の学習は修了する。4月からはそれぞれ自分にあったクラスで、更なる努力の日々が続く。最後の授業の日、「先生、今日最後。今度はどのクラスですか?また私たちを教えますか。」と名残を惜しんでくれた学生に、「大丈夫、大丈夫。みんなはまだABKで勉強するんだから、今日は〈さようなら〉じゃありません。ちゃんとやらなかったらすぐわかるんだからね。」なんて、冗談めかして言ってみるが、本当は修了式でもないのに、巣立ちを見守る親鳥の心境。

でも、「空の巣症候群」にかかる間もなく、また希望に胸を膨らませた新しい学生たちがやってくる。そうやって、みんなの日本語学習をサポートして、みんなから元気をもらって・・・、やっぱりこの仕事は最高!こんな風に学生と触れ合う場を与えてくださっているABKに心から感謝している。
                                       (ABK日本語コース教務主任)   

# by abkd_essay | 2010-08-09 21:43 | 教室で
<日本語教師としての私の原点>  田中利恵子
ホームページの表紙に載っているアジア文化会館の写真の下に「2009年52回目の春を迎えた会館」とあります。桜の花を前景にした美しい写真です。そして、今年は2010年、53回目の春を迎えています。桜の花にはまだ早いですが、3月3日ひな祭りの日に、新しい卒業生を送り出しました。彼等はどんな思い出をもって、旅立ったのでしょうか。建物には思い出が宿り、そして、人々の思いがそこを守ります。ABKは53年もの思い出をずっしりとため、年月を経て古びていく建物に、人々の思いが生き生きとした命を紡いで、人々を迎え、送り出しています。1973年に私は日本語講師として、海外技術者研修協会(AOTS)に就職しました。それ以来、途中ブランクがあったり、常勤から非常勤に、仕事先もAOTSからABK日本語コースに変わったりしたものの、30数年ABKに通い、思い出をため込みました。

現在のABK日本語コースの事務所は、かつてAOTSの事務所でした。L字型だった事務所は、半分になり、機器はパソコン、プリンター、コピー機と新しいものにすっかり変わりましたが、それでも、中程の壁を見ると、ああ、あそこに古い輪転機があったなあとよく思います。まだ、まともな訓練を受けていない新人日本語教師は教壇には立てません。できる仕事は、印刷でした。「日本語の基礎」の初版本ができたばかりの時で、まだ、語彙の別冊は本になっていませんでした。そこで、私がもらった仕事は、語彙の英語版を印刷し、横浜、名古屋、大阪の各センターに送る仕事でした。来る日も来る日も輪転機のご機嫌を取りながら、印刷したものです。

当時の私の机は、卓球台がおいてあるピロティーに面した窓際にありました。今も日本語講師の机がある辺りです。今と違って、床までガラス戸で、対面のロビーはもちろん、現在図書室になっている側面の理事長室もよく見えました。ある時、何気なく理事長室の方に目をやると、故穂積理事長がソファーから身を乗り出して外をみて、いたずらっぽい目つきで何かおかしそうに、にやっと笑っていらっしゃいました。視線の先は分かりません。何をご覧になっていたのでしょう。事務所から図書室の窓を見るたびにいまでもふと思います。

地下の102教室で始めて出席した研修コース開始の説明歓迎会。それは、まず、穂積理事長の謝罪から始まりました。過去に日本がアジアの国々で行ったことを詫び、日本へ学びに来てくれたことへの感謝の言葉でした。反戦だ、平和だと空虚に言葉だけが飛び交う70年代の大学を卒業したばかりの私には衝撃でした。互いに心を開き、人間として対等な関係で向かい合うことから、クラスがはじまるのです。日本語教師としての私の原点であり、常に反省し立ち返るところとなりました。ABKで日本語教師をはじめられたことに心から感謝しています。ありがとうございます。
                                      (前ABK日本語コース/日本語講師)
# by abkd_essay | 2010-05-11 16:35 | 教師のひとりごと
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